流れ




 翡翠みたいな空に無造作に破った綿みたいな雲が散っている。薄い太陽の光が注いで、なにか光る魚の群れみたいだ。早送りしたみたいに視界を泳いでいく。

 目線を下げれば見えるひび割れた赤茶色の地面を縫うアスファルトの道路は、干上がった川の跡ようだ。

 クラウドの背中で、自分を過ぎ去って行く景色に身を任せる。

 速い流れ。バイクの走る音と、風を切る音しか聞こえてこない。

 綺麗で圧倒的な星の景色が断片になって流れていく。

 乗っているだけの私は手持ち無沙汰だからなのか、星の表情に圧倒されているからなのか、思考は内へ内へと向かっていく。

 これと似た感覚を、私は体験したことがある。何が似ているのかって、うまく説明はできない。だけどあの時、クラウドと一緒に落ちたライフストリームの海の、彼の意識の奥底。

 そして気付く。

 あの頃、デリバリーの仕事を始めた頃、少しずつ塞いでいった彼を、今なら理解できる気がする。

 流れる景色が速すぎて、自分の気持ちがついていかないんだ。過ぎる景色に紛れていろんな思いが風に漂っている。目で感じるものなのか、耳で感じるものなのか、あるいはもっと別の感覚なのか、わからないものに囚われてしまいそうになる。

 なのに止まることをしなかったのね。打ち明けることも、寄りかかることも。それは自分に課した罰のように。

 結局人はひとりで、それぞれの人生は輪みたいなもの。

 円は重なることはあってもひとつにはなれない。形や大きさは微妙に違って、同じものはひとつもない。

 それでも円と円は交わることはできる。一緒に生きていくことは、重なり合うことだ。重なり合った部分にあるのは、共有した記憶、出逢った人たち。過ぎ去ってしまった人たち。

 体の中にもライフストリームがあるという。私たちひとりひとりが、いわば星の縮図みたいなもの。

 今ならその意味が、前より少しわかる。全ての始まり、そして還っていく場所。

 それは不思議な感覚なのだけど、理解するとそんなに怖がることではない。エアリスはきっと、ずっとそれを知ってたのね。

 でも私は彼女が、特別な使命を負う存在である前に、ひとりの普通の女の子だったということを知っている。

 そのエアリスの孤独を思う。ザックスの無念を思う。二つの円が交わった時間を思う。二人を救えず苦しんだクラウドを思う。

 だけどいなくなってなお濃い彼らの気配は決して怖いものではなくて、やわらかく吹いていく風。それに気付いたんだよね。クラウドだけじゃない、私たちみんなが。

 心残りはひとつだってない、そう本当に思える人なんていない。時々は止まって、見渡して、そうやって生きていって、すべてがいつか星を流れるライフストリームに還っていく。奪いもするし与えもする場所。

 それでいいんだよね。

 星の表面を走っていく。道路は星を巡る管。

 私はあなたの辿った道筋を追体験している。あなたの走らせるバイクに乗って、こんなことを考えるのはきっとそのせい。その時の孤独の記憶を感じながら、でも私には体を預けられる背中がある。

 体にまわした腕に力を込める。厚いジャケットが少し邪魔だけれど、その奥に確かに感じる肉体の存在。厚み、重さ。確かにここにいる。

 目から流れた水の粒が舞っていく。生きてる。そう思うと、溢れて止まらなくなる。青緑の空を映したそれは、まるでいつか見たライフストリームの色だ。

 止まらずに、このまま行きたい。レザーのジャケットが、涙をはじいて空に逃がしてくれる。

 この日の記憶はあなたのものであり私のもの。時が経って薄れて、画面にノイズの入った古い映画みたいにすりきれて見えなくなっても、その断片は流れの中を巡る。

 赤茶色の大地が終わる頃には、空の色も変わるだろう。さらに進めば、渇いた丘陵を抜ける途中、エッジの街の灯りが見えてくる。私たちの帰るところ。

 あなたの背中に顔を寄せてその場所を想うとき、私は星にも人間にも同じように漂う、怖くて美しいライフストリームの流れを思うのよ。









AC後まもなくのイメージですかね。

こういう何か出来事が起こってる訳じゃない、ちょっと抽象的というか観念的というかなんというか、雰囲気だけで繋げてるような話って、読んでて面白いかなあと思いつつ、結構書くのは好きなんです。

 (2014/07/06)



Worksへ戻る
Topへ戻る

inserted by FC2 system