待ち焦がれる
夕食時のピークが過ぎ、料理が一段落したので、ティファはカウンター越しに店内を見回してみた。今日も活気のある店内。窓際のテーブルの若い家族に目が止まり、あ、と思う。
今日初めて来たと思われる気の良さそうな若い夫婦で、2、3歳くらいの女の子が一人いた。来店したときに気付いてはいたが、マリンがオーダーを取ってくれたので、ティファはまだ話す機会がなかったのだ。
お冷のグラスが空になっていたので、お誂え向き、と思いピッチャーを片手にテーブルに近付く。
ティファが水を足しながら挨拶すると、母親はありがとうと言って朗らかに笑う。父親は無言だったが、目尻を下げて穏やかに微笑んでいた。
母親の膝の上で落ち着き無く動いていた子供の視線が、珍しいおもちゃでも見つけたようにティファの腹部に注がれている。恥ずかしそうにティファの顔とお腹を交互に見ながら、パン生地のように柔らかそうな指でお腹を指して、
「なにかいるの?」
と訊く。
母親譲りの夕陽のように鮮やかな赤毛と少しそばかすの多い顔、グレーの虹彩に黒い瞳孔がよく映える綺麗な目だ、とティファは思った。
「そうよ、赤ちゃん」
女の子の顔を覗き込む。このごろは身体を折るのも少々窮屈になってきた。
「触ってみる?」
許可を求めるように母親を見つめる女の子。母親に促されて、ふわふわの手をニットのワンピース越しの柔らかい曲線に触れる。
「わかんない」
恥ずかしそうに笑いながら母親にしがみついた。笑い交わす大人たち。
「眠っちゃったのかな」
お腹を撫でながらティファが言う。
「今どれくらい?」
女の子を抱え直しながら母親が訊く。
「ちょうど明日から24週目」
「立ち仕事でしんどいでしょう?」
「動いてるほうが性に合うみたいで」
腰に片手を当ててティファは答える。笑い合う二人。母親の表情を見ながら、笑うと頬の高い所が丸くなるところが彼女の子供によく似ている、とティファは思う。
テーブルの上のきれいに平らげられた皿を見て、口元が綻ぶ。
「飲み物、足しましょうか」
どうもありがとう、答える母親。女の子は既に父親の膝に移動してなにやら楽しそうにはしゃいでいる。
ピッチャーと皿を手にとり、キッチンへ戻って行く。この子の目は何色だろうと思いながら。